東京地方裁判所 平成8年(ワ)8169号 判決 1998年2月12日
原告
株式会社千代田インベストメント
右代表者代表取締役
大坂屋善吉
右訴訟代理人弁護士
的場徹
同
長谷一雄
同
佐藤容子
右的場訴訟復代理人弁護士
福﨑真也
被告
株式会社ルー・コーポレーション
右代表者代表取締役
髙田元興
被告
髙田元興
右両名訴訟代理人弁護士
近藤節男
同
園高明
同
萩原浩太
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して、金二四五三万三八〇八円及び内金九五三万三八〇八円に対する平成八年二月一五日から、内金一五〇〇万円に対する平成八年三月一三日から各支払ずみまで年一二パーセントの割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告の請求
主文と同旨
第二 事案の概要
本件は、原告が被告株式会社ルー・コーポレーション(以下「被告会社」という)に対しては消費貸借契約及び準消費貸借契約に基づき、被告髙田元興(以下「被告髙田」という)に対しては連帯保証契約に基づき、貸付金の支払を求めたところ、被告らが、原告との間でそれ以前に締結し、元利金の支払を終えていた別個の消費貸借契約につき、利息制限法の制限利息を超える利息を過払していたとして、この過払金返還請求権を自働債権とする相殺の抗弁を主張したため、右自働債権の存否と民法七〇五条の非債弁済の成否等が争われたという事案である。
一 前提となるべき事実
1 本件貸金一の成立等
(一)① 原告は、平成七年六月一四日、被告会社に対し、次のとおり、三〇〇〇万円を元本として貸し付けた。
弁済期 平成七年八月一四日
利息 年二四パーセント
ただし、二か月分(一二〇万円)を契約時に天引き。
② 右天引き利息のうち、利息制限法所定内の利息は七三万三八〇八円となるので、超過利息分四六万六一九二円を貸金元本三〇〇〇万円に充当すると、残元本額は二九五三万三八〇八円となる(ただし、充当に関する計算関係及びこれに基づく請求額は原告の主張の範囲内にとどめる。以下同じ)。
③ 原告は、平成七年八月九日、被告会社から、前記元本の内金として二〇〇〇万円の支払を受け、同日、被告会社との間で、残元本九五三万三八〇八円を消費貸借の目的として、弁済期を同年一一月一四日、利息を年六パーセント、利息の支払期限を同年八月八日、遅延損害金を年一二パーセントと定めて準消費貸借契約を締結した(以下「本件貸金一」という)。
(二) 被告髙田は、平成七年八月九日、原告に対し、被告会社の本件貸金一の債務について連帯保証した。
(三) しかし、被告会社は平成八年二月一四日までの利息を支払ったのみで、その余の支払をしない。
(以上の事実につき、<証拠略>)。
2 本件貸金二の成立等
(一) 原告は、平成七年九月一三日、被告会社に対し、次のとおり、一五〇〇万円を貸し付けた(以下「本件貸金二」という)。
弁済期 平成七年一二月一二日
利息 年一〇パーセント
遅延損害金 年一二パーセント
(二) 被告髙田は、平成七年九月一三日、原告に対し、被告会社の本件貸金二の債務について連帯保証した。
(三) しかし、被告会社は、平成八年三月一二日までの利息を支払ったのみで、その余の支払をしない。
(以上の事実につき、<証拠略>)。
二 争点―相殺の抗弁の成否について
1 自働債権の存否
(被告らの主張)
(一) 被告ら主張の貸金一
① 被告会社は、平成五年九月二日、原告から、四億円を元本として借り入れたが、その際、利息として一六〇〇万円の天引きを受けた(以下「被告ら主張の貸金一」という)。
② 被告会社は、同年一一月三〇日、原告に対し、四億円を返済した。
③ しかし、右利息の天引きは、利息制限法の制限利息を超過したものであり、右返済日までの同法所定内の利息は一四七九万四五二〇円であるから、一二〇万五四八〇円が過払となる。
(二) 被告ら主張の貸金二
① 被告会社は、平成五年九月二九日、原告から、四億円を元本として借り入れたが、その際、利息として一六〇〇万円の天引きを受けた(以下「被告ら主張の貸金二」という)。
② 被告会社は、同年一一月三〇日、原告に対し、四億円を返済した。
③ しかし、右利息の天引きは、利息制限法の制限利息を超過したものであり、右返済日までの同法所定内の利息は一〇三五万六一六四円であるから、五六四万三八三六円が過払となる。
(三) 被告ら主張の貸金三
① 被告会社は、平成六年九月一四日、原告から、二四億五〇〇〇万円を、元本として、弁済期を二か月後、利息を年三六パーセントとの約定により借り入れたが、その際、利息として一億四七〇〇万円の天引きを受けた(以下「被告ら主張の貸金三」という)。
② 被告会社は、原告に対し、平成六年一〇月二七日に二一億五〇〇〇万円、同年一一月一五日に三億円をそれぞれ返済した。
③ しかし、右利息の天引きは、利息制限法の制限利息を超過したものであり、右返済日までの同法所定内の利息は五七五七万五〇〇〇円であるから、八九四二万五〇〇〇円が過払となる。
(四)被告会社は本訴において、原告の本訴請求債権に対し、前記(三)、(一)及び(二)の順により各過払金返還請求権をもって対当額で相殺する。
(原告の反論)、
(一) 被告ら主張の貸金一及び二は、原告の親会社である訴外株式会社丸金コーポレーション(以下「丸金」という)が貸主となって、訴外株式会社阿見ゴルフクラブ(以下「阿見ゴルフ」という)に対して金員を貸し付けたものであり、原告と被告会社はいずれも右各貸付の当事者ではなく、被告らの主張は失当である。
(二) また、被告ら主張の貸金三は、原告が貸主となって、訴外株式会社森山不動産(以下「森山不動産」という)に対して金員を貸し付けたものであり、被告会社は単なる紹介者にすぎない。
2 非債弁済の成否
(原告の仮定主張)
(一) 被告会社は、被告ら主張の各貸金の支払につき、いずれも、利息制限法の制限利息を超える利息の天引きがされていることを十分知悉した上で、その後に貸付元本全額の支払をしたものであり、右超過利息の支払義務のないことを知りながら前記過払を行ったのであるから、民法七〇五条により、過払金の返還を請求できない。
(二) 被告会社は、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という)に基づく貸金業の登録をしている金融業者であり、原告や丸金から繰返し融資を受けては、これを他に高利で貸し付け、多額の利鞘を稼いでいたものである。
被告ら主張の各貸金については、いずれも、被告会社が積極的にこの融資を求めたものであり、被告会社は、被告ら主張の貸金一及び二に関し、阿見ゴルフから月五パーセントの利息及び月三パーセントの手数料を受領していたし、また、同貸金三に関しても、森山不動産から法外な金利を得ていたものである。被告会社は、右のように、金融による利益獲得のために、原告との間で利息制限法上の制限を超える高利の利息を支払うことに応じたものであって、経済的な弱者にはおよそ当たらず、被告会社には非債弁済の規定の適用を排除して過払金の返還を認めなければならないような事情は全く存しない。
(被告らの反論)
(一) 原告の右主張はすべて争う。
(二) 被告会社は、原告の行った利息の天引きが利息制限法の制限利息を超えるものであることは知っていたが、原告が貸金業者であるため、右高利の支払も貸金業法によって有効な利息の支払とみなされるものと思い込んでいたため、前記各超過利息の支払が法律上支払わなくてもよいものであることは全く知らなかった。
なお、被告会社が貸金業者としての登録後に実際に行った貸付は、本件の阿見ゴルフと森山不動産に関するものだけであり、決して金融業に通じていたわけではない。
第三 当裁判所の判断
一 相殺の抗弁について
1 被告ら主張の貸金三の成否
証拠(<略>)及び弁論の全趣旨によると、原告が平成六年九月一四日に被告会社に対して二四億五〇〇〇万円を元本として、弁済期を二か月後、利息を年三六パーセントの約定により貸し付けたこと、その際、原告が利息として一億四七〇〇万円を天引きしたこと、その後、被告会社が原告に対し、同年一〇月二七日に二一億五〇〇〇万円、同年一一月一五日に三億円を支払い、額面元本全額の返済をしたことが認められる。
なお、原告は、右貸付は原告が森山不動産に対して行ったものであると主張するが、前掲各証拠に照らし、右主張は採用できない。
2 非債弁済の成否
(一) 前記1によると、被告ら主張の貸金三につき、被告会社は、原告から利息制限法の制限利息を超える利息の天引きを受けた後、元本全額の支払をしたものであり、被告ら主張のとおり、制限利息を超える分について過払金の存することが認められる。
(二) 原告は、被告会社の右過払は、債務の存在しないことを知りながらされたものであり、非債弁済として、過払金の返済を請求することはできないと主張する。
そこで、検討するに、被告会社において、原告による右利息の天引きが利息制限法の制限利息を超えるものであることを知っていたことは被告らの自認するところであり、また、被告会社が、被告ら主張の各貸金の後に、引き続き、原告から本件貸金一及び二の貸付を受けたことは前記判示のとおりである。
そして、証拠(<略>)によると、被告会社は、平成四年七月に貸金業の登録をしており、カレー店舗の経営のほか、不動産取引や貸金業を行っていること、被告会社は、平成五年八月頃、阿見ゴルフの行う千葉県八街におけるゴルフ場開発事業に関し、阿見ゴルフに対して融資を行うこととし、丸金の副社長である大濵民郎に対してその資金提供を求めたこと、また、被告会社は、平成六年九月頃、森山不動産の行う東京都江戸川区平井のマンション建築事業に関し、森山不動産に対する資金調達等を受け持ち、右同様に大濵に対してその資金提供を求めたこと、そして、被告会社は、被告ら主張の貸金一及び二(合計八億円)につき、これを阿見ゴルフに貸し付け、これにより、月五パーセントの利息及び月三パーセントの手数料を得たほか、同貸金三については、森山不動産に対し、二五億円を元本として、二億五〇〇〇万円(月五パーセントの利息)もの利息を天引きして貸し付け、その結果、一億〇三〇〇万円の利鞘を得たことが認められ、被告髙田本人の供述及び乙一〇号証中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし採用できない。
右の事実関係によると、被告会社は、貸金業の登録を受け、実際にも高額の融資を取り扱っていたものであり、被告ら主張の貸金三については、原告との間で、利息制限法上の制限を超える高利であることを知りながら多額の利息の天引きに応じ、その一方で、森山不動産に対してはこれをさらに上回る高利によって利息を天引きして貸付を行い、その後に原告に対して元本全額の返済を行ったものであるから、これによれば、被告会社は、前記多額の利鞘を取得する目的のために、原告に対し、超過利息の支払義務のないことを知りつつ、この過払を行ったものと認めるのが相当である。
なお、被告らは、被告会社による右超過利息の支払につき、原告が貸金業者であるため、右支払も貸金業法による有効な利息の支払とみなされるものと思い込んでいたと主張し、被告髙田も同旨の供述をするが、前記のとおり、被告会社自身が貸金業者であり、自ら積極的に高利の融資に関わっていたことなどからすれば、被告らが真実貸金業法についての知識に疎く、そのために右主張のような思込みをしていたとはにわかに考え難いものであり、被告らの右主張は採用できない。
以上によると、被告ら主張の貸金三についての利息の過払が非債弁済に当たるとする原告の主張は理由がある。
3 次に、被告らは、被告ら主張の貸金一及び二の利息の過払についても相殺の主張をするが、右各貸金が原告から被告会社に対して行われたものであるとする点についてはこれを認めるに足りるだけの十分な証拠はないから(乙一号証(準備書面)の記載部分は必ずしも的確な証拠とはいえない)、そもそも原告に対する自働債権の存在を認め得ないものといわなければならない。
さらに、前記2(二)で判示したとおり、被告会社は、右各貸金の超過利息の支払についても、被告ら主張の貸金三の場合と同様、右利息の支払義務のないことを知りつつ、過払を行ったものと認められるから、非債弁済に当たるものというべきである。
以上によると、被告ら主張の貸金一及び二に関する相殺の主張はいずれにせよ理由がない。
4 よって、被告らの前記相殺の抗弁はすべて理由がないことに帰着する。
二 以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容すべきである。
(裁判官安浪亮介)